あきない世傳(せいでん) 金と銀 商売往来(しょうばいおうらい)

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主人公・幸はどうやって商売の知識を得たのか?

呉服の商売に関わることがない女衆

NHK特選時代劇「あきない世傳(せいでん) 金と銀」とNHKBS時代劇「あきない世傳(せいでん) 金と銀 2」は、江戸時代中期、大坂の呉服商・五鈴屋を舞台として女主人・幸(小芝風花)が活躍するドラマです。

この幸は五鈴屋に女衆として奉公に上がっています。当時の習慣から、幸は呉服商の経営どころか商売そのものに関わることは一生ないと目されていましたが、五鈴屋主人・四代目徳兵衛のあまりの放蕩ぶりから菊栄と言う嫁に逃げられたことから運命が変わります。

幸は「商売往来」を誦じることができた

幸は四代目徳兵衛の後妻として迎えられることになりますが、その前に女衆である幸が呉服商の「ご寮さん」としてふさわしい女性であるか、大坂天満の呉服仲間で試問されます。

そのとき14才の幸が並み居る同業者たちの目の前で暗唱したのが、番頭の治兵衛から教わった「商売往来」です。幸の口から出た「商売往来」は一言一句が間違いのないもので、同業者たちを感心させました。

往来物の一種 「商売往来」について

「往来物」とは

ではこの「商売往来」とは何でしょうか?

まず「商売往来」は「往来物」の一種で、「往来」を現代語に訳すとすれば、「教科書」や「テキスト」となるでしょう。

往来物は江戸時代に主に教育用として使用された本で、寺子屋や家庭で文章の書き方や読み方、礼儀作法、算術などを学ばせる教材として広く用いられました。一部には挿絵が描かれており、読みやすさや理解を助ける工夫がされていました。

往来 という名称は、師匠と弟子の間で交わされる手紙(往復書簡)の形式から由来しています。

「商売往来」とは

商売往来は1694(元禄7)年ごろに、大坂で手習いの師匠をしていた堀流水軒(ほりりゅうすいけん)という人物がまとめたと言われています。

商売往来には往来物の一種です。商取引における依頼・注文・受注・支払い確認など、現実の商売で必要とされる手紙の例文が盛り込まれたほか、商売人としての心得や接客の心得についても記述されており、丁稚がこれ一冊を身につければ商人として一生困ることはないと言われたほどです。

業種ごとの商品についても記載

商売往来は商人全般が必要となるスキルや心構えなどの他にも、業種別に扱われる品物の名前も記載されていました。

例えば幸は呉服商の奉公に上がっているので、幸と丁稚たちは羽二重(はぶたえ)・紗綾(さあや)・天鵞絨(びろーど)など絹織物の名前・漢字の読み方や書き方などを商売往来を通して学ぶことになります。

商売往来の内容

ではその商売往来とは、具体的にどのような内容だったのでしょうか?

下記の引用は小説版の「あきない世傳(せいでん)金と銀」源流篇で、五鈴屋の番頭・治兵衛がまだ丁稚だった時に二代目・徳兵衛から教わった「商売往来」の内容を回想している部分を引用した箇所です。

挨拶、應答(あしらい)、饗應(もてなし)、柔和たるべし。大いに高利を貪(むさぼ)り、ひとの目を掠め、天の罪を蒙(こうむ)らば、重ねて問い来る人稀(まれ)なるべし。天道の働きを恐る輩(ともから)は、終に富貴、繁昌、子孫栄花の瑞相なり。倍々利潤、疑い無し。よって件(くだん)の如し。

高田郁「あきない世傳(せいでん)金と銀」源流篇 角川春樹事務所 150ページより

この引用した箇所は商人としての基本的な心得を説いているということが分かります。

商売往来と大河ドラマ「べらぼう」の蔦屋重三郎

明治時代になってもなお刊行された商売往来

商売往来は17世紀後半に出版されて以来、商人たちの間で大変な人気を博したそうです。江戸時代が終わり、明治時代に時が変わっても、新たな内容が付け加えられてなお刊行され続けたと言います。

いわば商売往来は「商人たちのベストセラー」だったのです。

2025年NHK大河ドラマの蔦屋重三郎

このように往来物は教科書として一定の需要が常にあり、その手堅さに目をつけた人物が、2025年NHK大河ドラマ「べらぼう」で主人公となっている蔦屋重三郎です。

蔦屋重三郎は後世に「江戸のメディア王」として当時の出版業界で燦然と輝く存在ですが、その実家は本屋とは全く関係ない吉原の引手茶屋です。

本とは全く関係のない新規参入者に関わらず、蔦屋重三郎は江戸の日本橋通油町に「耕書堂」という地本問屋を構えますが、そのための最初の資本は吉原細見富本正本・商売往来などの往来物で築いたと考えられています。

蔦屋重三郎が目につけた「商売往来」

吉原細見とは吉原遊郭のガイドブックであり、富本正本は浄瑠璃の一派である富本節の楽譜本です。

それぞれジャンルが全く異なる本だったにも関わらず、往来物・吉原細見・富本正本に共通する利点は、すべて買う客が決まっていて売れ残るリスクがほとんどないという点です。

蔦屋重三郎自身が決して「大博打」などを打たない手堅いビジネスマンとして考えられており、そのうちの1つの商材が、「あきない世傳(せいでん)金と銀」で登場する「商売往来」でした。

著:髙田 郁
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