江戸時代中期の呉服商について
五鈴屋の商いは呉服商
NHK特選時代劇「あきない世傳(せいでん) 金と銀」とNHKBS時代劇「あきない世傳(せいでん) 金と銀 2」は、江戸時代中期、大坂の呉服商・五鈴屋を舞台として、女主人の幸(小芝風花)が活躍するドラマです。
そのため18世紀中頃の大坂に存在した呉服商の商いに関わる話題や、呉服商が扱うさまざまな絹織物が登場します。
呉服商が扱う織物について
現代の呉服商が扱う織物
現代の日本でも呉服商という業態は存在しますが、扱っている織物の種類は絹織物・綿織物・麻織物・ウールなどさまざまです。
現在の呉服商とは、和服や和装小物などを販売する商売形態のことを指すことが一般的です。
絹織物は呉服 綿織物・麻織物は太物(ふともの)
しかし「あきない世傳(せいでん) 金と銀」の物語が始まる、1730年代から1740年代の頃は、扱う織物の種類によって業種が異なっていました。
主人公・幸が経営する五鈴屋は呉服商であり、扱っている織物は、羽二重(はぶたえ)・紗綾(さあや)・天鵞絨(びろーど)などの絹織物だけです。
一方、木綿などの綿織物や楮(こうぞ)などの麻織物を扱う商人のことを、太物商(ふとものしょう)と呼んでいました。
大坂では呉服商と太物商は別業態
江戸においては17世紀後半に白木屋が「呉服太物商」という業態を始めたのち、絹織物と太物の違う種類の織物を扱う業者が存在しました。
しかし大坂では仲間同士の取り決めとして、呉服商が太物を扱うことは控えることになっていたようです。
反物から着物に 誰が仕立てていたのか?
江戸時代の呉服商は反物だけを販売していた
現代の日本では一般的な個人客が呉服屋さんに行って買うものとは、振袖・留袖・袴などのいわゆる「完成品」です。洋装かつ既製品に慣れた今の日本人にとって、購入した反物だけを受け取っても困る人がほとんどでしょう。
しかし「あきない世傳(せいでん) 金と銀」に登場する江戸時代中期では、たとえ販売相手が個人客であろうとも、呉服商が販売するのはあくまでも反物だけです。
仕立てをするのは女性
もちろん当時のお客もなんらかの着物を着るために反物を買っているので、誰かがその反物から着物に仕立てなければなりません。
裕福な商家や武家では裁縫専門の下女を雇い入れて、彼女たちに仕立てを任せていましたが、たいていの場合は、妻や娘など一家の女性が反物を縫って着物に仕立てていたと考えられています。
男性の仕立物師に任せるケース
ただし花嫁衣装のように間違いのない仕立てにしたい場合は、男性の仕立物師(したてものし)に仕立てを依頼するケースもあったようです。
小説版の「あきない世傳(せいでん) 金と銀」(二) 早瀬篇では五鈴屋のお家さんである富久は裁縫の名手であるにも関わらず、幸が四代目徳兵衛の後添えとして嫁入りするときは、仕立物師の喜助に晴れ着の仕立てを依頼する場面が描かれています。
「あきない世傳(せいでん)金と銀」に登場する絹織物
紗綾(さあや)羽二重(はぶたえ) 天鵞絨(ビロード) など
「あきない世傳(せいでん)金と銀」でよく登場する絹織物には以下の種類のものが挙げられます。もちろんこれらの織物はどれも高級品で、明石縮は一反あたり銀六十匁の値段がついていました。
織物の名前 | 読み方 | 特徴 | 用途 |
---|---|---|---|
紗綾 | さあや | 斜子織による斜め模様、耐久性としなやかさ | 和装(着物、帯)、スーツ、小物 |
羽二重 | はぶたえ | 滑らかで光沢があり柔らかい | 着物の裏地、小物、染色素材 |
天鵞絨 | びろーど | 短い毛足で滑らか、豪華な光沢 | ドレス、舞台衣装、インテリア |
絽 | ろ | 透け感のある薄手の絹織物 | 夏用着物、羽織、帯 |
金欄 | きんらん | 金糸を織り込んだ豪華な絹織物 | 仏具、法衣、帯、装飾品 |
緞子 | どんす | 厚手で模様が浮き出る絹織物 | 着物、帯、インテリア装飾 |
綸子 | りんず | 地紋が浮き出る光沢のある絹織物 | 着物、袱紗、小物 |
紬 | つむぎ | 無地または素朴な模様、ざっくりとした風合い | 普段着の着物、小物 |
明石縮 | あかしちぢみ | 細い縦縞模様、軽く涼しい | 夏用着物、浴衣 |
黄八丈 | きはちじょう | 黄色、茶色、黒の伝統的な縞模様 | 普段着の着物、小物 |